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仙台高等裁判所 昭和54年(行コ)4号 判決 1984年7月18日

控訴人

佐藤三郎

右訴訟代理人弁護士

吉田幸彦

鈴木宏一

被控訴人

日本電信電話公社

右代表者総裁

真藤恒

右指定代理人

佐藤康

浅野幸雄

阿部勇行

熊谷富雄

高橋淳

仁平雅万

高尾正紀

平井和男

右当事者間の懲戒処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和四七年五月二日付けで控訴人に対してなした二月間の停職処分は無効であることを確認する。被控訴人は控訴人に対し二〇万六、六八〇円を支払え。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加訂正するほかは原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

1  原判決六枚目表七行目と八行目との間に次のとおり付加する。

「(ウ) 被控訴人の就業規則第五九条第一項八号、第五条第一項によれば、職員がみだりに欠勤した場合には懲戒されることがある旨を定めているところ、控訴人の右逮捕勾留中の欠勤は、右規則にいうみだりに欠勤した場合に該らない。すなわち、被控訴人の就業規則は、職員が刑事々件により起訴された場合には休職とすることができる旨を定めるとともに、その職員が有罪の確定判決を受けたときは懲戒されることがある旨を定めている。そして、右規定の趣旨は、職員が刑事々件により起訴されたこと自体を懲戒事由としないことはもとより、その起訴に伴って職員が欠勤を余儀なくされた場合にも、休職の扱いとして、これを懲戒事由とせず、有罪判決が確定したときにはじめてこれを懲戒事由とすることを明らかにしたものと解される。従って、右の規定の趣旨からすれば、刑事々件について起訴にも至らない段階における身柄拘束のため勤務することができなかった場合についても、これを懲戒事由とはなし得ないことが明らかである。そうすると、前記就業規則第五九条、第五条にいう懲戒事由としての「みだりに欠勤した場合」の中には起訴前の身柄拘束を受けたために出勤不能となった場合が含まれないものというべきであり、従って控訴人の右逮捕勾留中の欠勤は被控訴人の就業規則所定の懲戒事由に該らないものといわなければならない。」

2  同六枚目裏八行目と九行目の間に次のとおり付加する。

「(4) 以上のとおり控訴人には被控訴人のいうような懲戒事由は存在しないことが明らかであり、仮に無断欠勤とみるべきものがあるとしても、それは昭和四六年九月一六日の一日だけに過ぎないから、これを理由に控訴人を停職二か月に処することは著しく重きに失し懲戒権の濫用といわざるを得ないばかりでなく、一一月二四日から一二月一〇日までの分については、後記のとおり被控訴人において故意に控訴人に対する懲戒事由を作出する意図のもとに、従前の労働慣行に反し且つ正当事由がないのに控訴人が指定した年休の時季を変更して無断欠勤の扱いとしたものであり、この点からみても本件処分は懲戒権の濫用として無効といわなければならない。」

3  同六枚目裏一〇行目の「減額された。」を「減額されたほか、本件停職処分により、昭和四八年四月一日の定期昇給に際し昇給額の二分の一を減ぜられ、以後右昇給減額にかかる給与を基準に控訴人の昇給額が算定されていることから、右昇給減額がなされなかった場合に比して控訴人の給与は低額に止まっており、両者の格差は今後ますます拡大していくと考えられるうえ、退職金や年金額にも影響することが明らかである。」と改める。

4  同三六枚目裏九行目と一〇行目の間に次のとおり付加する。

「なお、控訴人は、被控訴人の就業規則上、刑事々件で起訴された職員について刑事休職とし、これを懲戒処分の対象としないことを根拠に、起訴前の身柄拘束に基づく欠勤も懲戒処分の対象となし得ないと主張するが、刑事休職制度は起訴された職員の責任を追及することを本旨とするものではなく、このような職員は裁判手続に服しなければならないため継続的に且つ安定した労務の提供を期待できないことと、犯罪の嫌疑をかけられている職員を業務に従事させることは、公社に対する国民の信頼を保持し職場の秩序を維持するうえで好ましくないため、就労を免除してその職務から一時離脱せしめることを目的としたものであって、そこには懲戒の対象としての非違行為性はないのに対し、就労義務を負う職員が無断欠勤した場合には、たとえその欠勤の理由が刑事々件による身柄拘束にある場合であっても、職場の秩序を乱す非違行為として懲戒の対象となることは当然であって、両者を同一視する控訴人の主張は失当といわなければならない。」

5  (証拠関係略)

理由

一  当裁判所は、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次に付加訂正するほかは原判決の理由に説示するところと同一であるから、これを引用する。

当審で控訴人が提出し、援用した(証拠略)、当審証人(略)の証言及び当審における控訴人本人尋問の結果によっても、右引用にかかる原判決の認定、判断を左右するに足りない。

1  原判決五四枚目裏一〇行目の「しかしながら」から、同一三行目末尾までを「しかしながら、本人の意思決定に基づき、これを他の者が使用者に伝達するという方法により時季指定の意思表示をなすことはさまたげないものと解される。」と改める。

2  同五五枚目裏一行目の「原告のため」から同三行目末尾までを「控訴人のために年休の時季指定をなしたのは、控訴人の決定した年休の時季指定に基づき、これを使用者に伝達したものとみることができるから、これにより控訴人は同月二四日の一日を年休の時季に指定する旨の意思表示をしたものというべきである。」と改める。

3  同五六枚目表一一行目の「菅野が補助者として」を「菅野が控訴人の意思の伝達機関として」と改める。

4  同五六枚目裏三行目の「しかしながら」から同六行目の「解すべきであり」までを「しかしながら、前記認定のとおり、控訴人は同年一一月一九日上京するに先立って菅野に対し、控訴人が逮捕勾留され欠勤した場合には控訴人のために年休の時季指定をするよう依頼していたのであるから、右休暇届をなすにつき控訴人は年休の時季指定をする意思であったものと認められるうえ、菅野は同月二〇日、二二日、二四日の三回に亘りいずれも控訴人のために年休の時季指定をしていたのであるから、被控訴人としても、右休暇届が年休の時季指定の趣旨であることを知ることができたものというべきであることに鑑みると、右休暇届によって年休の時季指定がなされたものと解するのが相当であり」と改める。

5  同五六枚目裏一〇行目の「残日数は一四・五日と二時間」とあるのを「残日数は法定内休暇が六・五日、法定外休暇が八日と四時間」と改める。

6  同五七枚目表一一行目の「二時間の」の次に「法定外休暇の」を加える。

7  同六二枚目裏一一行目に「七月一〇日付」とあるのを「三月一八日付」と改める。

8  同六四枚目表一〇行目と一一行目の間に次のとおり付加する。

「そして控訴人は右被疑事実に基づき逮捕に引続き勾留され取調べを受けた結果、同年一二月一〇日、東京地方検察庁検察官は控訴人に対する兇器準備集合及び公務執行妨害各被疑事件については起訴猶予、現住建造物等放火被疑事件については嫌疑不十分との理由でいずれも不起訴とする旨を決定し、同日控訴人を釈放した。」

9  同六四枚目表末行から同裏三行目までを次のとおり改める。

「右認定事実によれば、控訴人は、機動隊による検挙活動のまき添えとなって不当に逮捕され引続き勾留されたものではなく、右認定の多衆による兇器準備集合、公務執行妨害行為の実行中、自らもすゝんでこれらの集団と行動を共にして右犯罪を実行し、その結果逮捕勾留されるに至ったものと認めざるを得ないから、右逮捕勾留期間中の控訴人の欠勤は控訴人の責に帰すべき事由に基づくものといわざるを得ない。従って控訴人の右主張は理由がない。」

10  同六四枚目裏三行目と四行目の間に次のとおり付加する。

「(四) 控訴人は、被控訴人の就業規則に定める刑事休職制度の趣旨に照らし、起訴にも至らない段階における身柄拘束のため欠勤した場合は、就業規則第五条にいうみだりに欠勤した場合に該らないと主張する。しかし、就業規則第五条、第五九条の趣旨は、事由の如何を問わず無断欠勤をすることによって職場の秩序を乱した職員に対し懲戒処分をすることができる旨を定めたものであって、刑事々件で起訴された職員を一時職務から離脱せしめることを目的とする刑事休職制度とはその趣旨目的を異にするうえ、刑事々件で起訴されたことが懲戒事由とされないのは、その犯罪の成否が未確定であることによるものではなく、起訴されたこと自体には格別非違行為性がないためと考えられることからすれば、起訴前の身柄拘束のために欠勤した者について、その犯罪の成否が未定であることを理由に懲戒の対象から除外すべきものと解する余地はなく、この点に関する控訴人の主張は採用できない。

また、控訴人は、被控訴人が故意に控訴人に対する懲戒事由を作出する意図のもとに控訴人が指定した年休の時季を変更して無断欠勤の扱いとしたものであり、本件処分は懲戒権の濫用であると主張するけれども、本件全証拠を子細に検討しても被控訴人が控訴人主張のような意図のもとに年休の時季を変更したものとは認められず、かえって、前記認定のとおり被控訴人がなした右年休の時季変更の意思表示は正当な理由に基づくものと認めることができるから、この点に関する控訴人の主張もまた採用の限りでない。」

11  同六四枚目裏八行目の「本件処分」から同一二行目末尾までを、「本件処分は相当であり、これを無効とすべき事由はないものといわざるを得ない。」と改める。

二  ところで、原審は、控訴人の本件停職処分の無効確認を求める部分について、その無効確認を求める利益がないとしてこれを却下したものであるところ、被控訴人の就業規則(<証拠略>)によれば、停職処分を受けた職員は復職後の定期昇給時に昇給減額の措置を受けるものとされており、これによれば、控訴人には本件処分の無効確認を求める利益がないとは断じ難いから、これと結論を異にし右確認の利益がないとして本件処分の無効確認を求める部分を却下した原審の判断は違法といわざるを得ないが、本件処分の当否については既に原審において実質審理を尽したうえ、控訴人の賃金請求を棄却する前提として本件処分は相当である旨の判断を示しているのであるから、本件については民事訴訟法第三八八条により原判決中右却下にかかる部分を取消したうえ、同部分を原審に差戻すまでの必要はなく、原審及び当審の審理の結果に基づいて控訴人の右請求部分につき実体判断をすることが許されるものというべきである。そうすると、控訴人の本訴請求は全部理由がないから失当としてこれを棄却すべきところ、その結論は原判決の結論よりも控訴人に不利益となることが明らかであるから、結局、原判決の結論を維持するほかはなく、控訴人の本件控訴は理由がないといわなければならない。よって、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤豊治 裁判官 富塚圭介 裁判長裁判官眞船孝允は退官のため署名押印することができない。裁判官 伊藤豊治)

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